子どもたちとのレッスン

第1章|この活動が生まれるまで

音楽とのあゆみ

私は専門的にピアノを学んだ後、多くの音楽に関わる仕事をしてきました。
特に合唱やピアノ講師としての現場では、4歳から80代まで様々な年齢の方々と多くの音楽経験を重ねてきました。
その中で強く感じてきたのは、音楽は人の心を動かし、未来や日常を生きる力になっている、ということです。

これからの時代と音楽の力

そうした想いを確信しながら音楽と向き合っている中で、保育園での音楽指導のご縁にも恵まれました。現場を経験しながら、勉強を続ける中、VUCAという言葉に出会いました。
VUCA(ブーカ)とは、変動・不確実・複雑・曖昧の頭文字をとった言葉で、「先が見通しにくい時代」を表しています。

AIやテクノロジーが益々進化し、社会がよりVUCAな時代へと向かっていく中、人が人生を生き抜くために必要なことは何か。
経験や体験の積み重ね、そこから生まれる感情、人と人との関わり——これらすべてに繋がる、人としての「心」ではないかと思いました。

自分を愛し、人を信じ、人とつながる——その感情に深く触れるもののひとつが、「音楽」だと、強く思うようになりました。

活動の原点

こうした想いが重なる中、人生を揺るがす出来事が起こりました。それは当時2、3歳だった息子の大きな病でした。
このことが、この活動を立ち上げる1番の後押しとなったのです。
約10ヶ月に及ぶ小児病棟での日々は、私にとって今でも忘れられない時間です。

長い病棟生活、みんなが大変な中、気づいたことがありました。
子ども達は、「心が動く時間」があると、目の輝きが変わるということです。
子どもたちには、そんな「心が動く時間」を少しでも多く過ごしてほしい、当時心の底からそう思いました。
「心動く時間」の積み重ねが、生きる力になる、そう強く感じたのです。

どんな子にも必要な「心動く時間」。私ができることは何だろうか。
「音楽を通じて子ども達に楽しい時間を届けること」。
音楽と向き合ってきた人生と、強い想いが重なった時、この活動の立ち上げに向けて動きだしたのでした。

「おとびら」に込めた願い

感情に深く触れるものの一つが、音楽。
そして「心動く時間」の積み重ねが、生きる力になる。
この二つの想いが重なって生まれたのが、「おとびら」という名前です。

おとびら——それは、音の扉。
扉を開いた先には、たくさんの世界が広がっています。音楽をきっかけに、科学へ、言葉へ、異国の文化へ、絵画・自然への興味へ。これまでの音楽生活の中で、そのつながりを実感してきました。

子どもたちが音の扉を開けたその向こうに、たくさんの幸せな時間、自分にしっくりくる新しい出会いが待っていますように。そしてそこで出会った「心動く時間」を糧に、困難な時にも、自分なりの「生き抜く道」を見つけてほしい。
そう願って、この名前をつけました。


第2章|3つの音楽の贈り物

音楽顧問について

さて、音楽指導や正課レッスン、リトミックを取り入れている園は多くあります。
ただ、現場で体験するうちに、年間計画・設備・発表会・コンサートまで、音楽に関わることをまとめて相談できる存在が必要とされていると感じました。

音楽全体を把握できる専門家がいることで、年間を通じた積み重ねや繋がりを持って子どもたちに届けることができます。
先生方の手間が省けるだけでなく、音楽が「点」ではなく「線」になっていく——愛情たっぷりに子どもたちと向き合い、大きな流れの中で子どもたちを見守る大人の存在が園に1人増える。そんな関わりが、とても大切だと思うのです。

そのため、日々の音楽指導や身近にプロの音楽を体験できるワークショップ以外に、こうした音楽顧問という関わり方を加えさせていただきました。

日常と非日常の音楽

子ども達はそれぞれに個性があり、得意不得意もさまざまです。音楽は、その多様さを丸ごと受け止めてくれます。そして、身体・言葉・絵・自然など、さまざまな興味への入り口にもなります。

月2回のレッスンでは、テンポよく次々と違う課題のプログラムを進行します。音楽への興味が少ない子でも、どこかのプログラムには飛びついてくれますし、音楽をきっかけに、思いがけない得意や好きなことが見つかることもあります。

また、自ら足を運ぶ「習い事」ではなく、保育園・幼稚園という日々の場所で音楽と出会えることも魅力です。習い事に通えない子にも音楽経験が届き、生活の中に音楽が自然に溶け込んでいくからです。

そして、ワークショップでは、楽器や生演奏との出会いという非日常の体験ができます。子どもたちは初めてのことに素直に反応し、思いがけない表情を見せてくれます。

日常と非日常、その両方の重なりにより、豊かな時間が流れます。そんな小さな「心動く瞬間」の積み重ねが、子ども達の未来を支える力になると信じています。


第3章|想いを込めて

保護者・先生方へ

子育ては、一人ではできない。
私はそう身を持って実感しました。
息子の闘病中、病院のスタッフの方々、保育園の先生方、周りの多くの人に支えられて、私たち家族は乗り越えることができました。
社会全体で子どもたちを育てていく——そんな温かいつながりの中に、私も一員として加わりたいと思っています。

日々忙しいパパママにとって、無理なく子どもたちに良い体験を届けられる存在でありたい。
先生方も日々多くの仕事に追われながら、子どもたちと真剣に向き合ってくださっています。
音楽の時間が、子どもたちだけでなく、先生方にとっても「心動く瞬間」になれたら、こんなに嬉しいことはありません。

子どもたちが大人になる頃、世界が平和で幸せであってほしい——それが、私の一番根っこにある願いです。

体験や経験は、人間にとってかけがえのない宝です。
さまざまな世界に触れ、選択肢を広げ、自らそれを選べる状況が、豊かな人生につながると信じています。
これからの時代、敷かれたレールを歩むだけでなく、自分でレールを作る力が求められます。
「生きる喜び」「心動く瞬間」をたくさん抱きしめた子どもたちが、困難な時もその引き出しを開けながら、逞しく生きていけるよう、心から願っています。

コンサートの様子

プロフィール

村田智佳子

武蔵野音楽大学大学院修了後、モスクワ音楽院大学院にて研鑽を積む。国際コンクールにて複数入賞。帰国後はソロ・室内楽・合唱伴奏など幅広い演奏活動を行いながら、昭和音楽大学附属音楽教室講師を経て、ピアノ講師として独立。子どもから大人まで16年以上にわたり幅広い世代の指導に携わる。

現在は様々な世代の合唱団ピアニストを務め、「音ぽっけ」のメンバーとして子どもを中心にファミリー層へのコンサートにも参加。大人の方や指導者を中心にピアノレッスンも行いながら、演奏と指導、両方の現場に立ち続けている。

幼い頃の小さな体験が、その子の人生を豊かにすると信じ、音楽を通して子どもたちの世界をひらく活動を続けている。

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