第1章|この活動が生まれるまで
音楽とのあゆみ
私は専門的にピアノを学んだ後、多くの音楽に関わる仕事をしてきました。
特に合唱やピアノ講師としての現場では、4歳から90代まで様々な年齢の方々と多くの音楽経験を重ねてきました。
その中で強く感じたのは、音楽は人の心を動かし、日常を生きる支えになりうる、ということです。
これからの時代と音楽の力
そうした想いを胸に音楽と向き合う中で、保育園での音楽指導のご縁にも恵まれました。
現場経験を重ね、勉強を続ける過程で、VUCAという言葉に出会いました。
VUCA(ブーカ)とは、変動・不確実・複雑・曖昧の頭文字をとった言葉で、「先が見通しにくい時代」を表しています。
※参考:白井俊著『OECD Education2030 プロジェクトが描く教育の未来』ミネルヴァ書房
AIやテクノロジーが進化し、社会がよりVUCAな時代へと向かっていく中、人が人生を生き抜くために必要なことは何か。
経験や体験の積み重ね、そこから生まれる感情、人と人との関わり——そこに答えがあるのではないかと思いました。
自分を愛し、人を信じ、人とつながる——感情に深く触れるもののひとつが、「音楽」
先行きの見えない時代だからこそ、自分の心を支えてくれる存在が必要です。
音楽は、苦しい時にも楽しい時にも、そっと寄り添ってくれるかけがえのない存在になりうる——そう思うのです。
活動の原点
こうした想いが重なる中、人生を揺るがす出来事が起こりました。
それは当時3歳だった息子の大きな病でした。
このことが、この活動を立ち上げる1番の後押しとなりました。
約10ヶ月に及ぶ小児病棟での日々は、私にとって今でも忘れられない時間です。
長い病棟生活、ある気づきがありました。
子ども達は、「心動く時間」があると、目の輝きが変わるということです。
子どもたちには、そんな「心動く時間」を少しでも多く過ごしてほしい、心の底からそう思いました。
「心動く時間」の積み重ねが、生きる力になる——そう感じた時、自分ができることを考えました。
「音楽を通じて子ども達に”楽しい時間”を届けたい」
毎日病院に通う中、多くの思うことがある中、この活動の立ち上げに強く気持ちが動いていきました。
「おとびら」に込めた願い
「心動く時間」の積み重ねが、生きる力になる。
そんな想いを込めてつけた名前が、「おとびら」です。
おとびら——それは、音の扉。
扉を開いた先には、たくさんの世界が広がっています。
音楽をきっかけに、科学へ、言葉へ、異国の文化へ、絵画・自然への興味へ。
子どもたちが音の扉を開けたその向こうに、たくさんの幸せな時間、新たな面白い出会いが待っていますように。
そしてそこで出会った「心動く時間」を糧に、困難な時にも、自分なりの「生き抜く道」を見つけてほしい。
そう願って、この名前をつけました。
第2章|3つの音楽の贈り物
音楽顧問について
さて、音楽指導や正課レッスン、リトミックを取り入れている園は多くあります。
ただ、現場経験を重ねると、年間計画・設備・発表会・コンサートまで、音楽に関わることをまとめて相談できる存在が必要だと感じました。
音楽全体を把握できる専門家がいることで、年間を通じた積み重ねや繋がりのある活動を子どもたちに届けることができます。
先生方の手間が省けるだけでなく、音楽を「点」ではなく「線」にしていく——そんな専門家との関わりを、音楽顧問という形でご提案しています。
日常と非日常の音楽
子ども達はそれぞれに個性があり、得意不得意もさまざまです。
音楽は、その多様さを丸ごと受け止めてくれます。
月2回のレッスンでは、テンポよく次々と違う課題のプログラムを進行します。
音楽への興味が少ない子でも、どこかのプログラムには飛びついてくれますし、音楽をきっかけに、思いがけない得意や好きなことが見つかることもあります。
習い事に通わなくても、日々の園生活の中で音楽と出会えること——そこに、この活動の意味があると思っています。
そして、ワークショップやコンサートでは、楽器や生演奏との出会いという非日常の体験ができます。
子どもたちは初めてのことに素直に反応し、とても可愛らしい表情を見せてくれます。
日常と非日常、その両方の重なりの中で、小さな「心動く瞬間」の積み重ねが、子ども達の未来を支えてくれますよう、願っています。
第3章|想いを込めて
パパママ・ご家族さま、先生方へ
子育ては、一人ではできない。
私はそう身を持って実感しています。
社会全体で子どもたちを育てていく——そんな温かいつながりの中に、私も一員として加わりたい。
日々忙しいパパママのために、無理なく子どもたちに良い体験を届けたい。
先生方も毎日真剣に子どもたちと向き合ってくださっています。
一緒に過ごす音楽の時間が、子どもたちだけでなく、先生方・パパママ・ご家族の皆さまにとっても「心動く瞬間」になれたら、こんなに嬉しいことはありません。
この世界に生まれてきて受けた大切な「生」を、精一杯楽しんでほしい。
そして、子どもたちが大人になった時、その人生を楽しめる世の中であって欲しい。
それが、私の一番根っこにある願いです。
聴く、感じる、反応する、表現する
リズムを刻む、拍子を感じる
これらは音楽の基礎であり、人が本来持つ感覚そのものでもあります。
「楽しい」という「心動く瞬間」を入り口に、遊びの中で、こうした土台を音楽から育てる。
その土台が、その子のこれからをそっと支えてくれますよう。
「心動く瞬間」をたくさん抱きしめた子どもたちが、困難な時もその積み重ねた自分の引き出しを開けながら、逞しく生きていけるよう、心から願っています。
プロフィール
武蔵野音楽大学大学院修了後、モスクワ音楽院大学院にて研鑽を積む。国際コンクールにて複数入賞。帰国後はソロ・室内楽・合唱伴奏など幅広い演奏活動を行いながら、昭和音楽大学附属音楽教室講師を経て、ピアノ講師として独立。子どもから大人まで16年以上にわたり幅広い世代の指導に携わる。
現在は様々な世代の合唱団ピアニストを務め、「音ぽっけ」のメンバーとして子どもを中心にファミリー層へのコンサートにも参加。大人の方や指導者を中心にピアノレッスンも行いながら、演奏と指導、両方の現場に立ち続けている。
幼い頃の小さな体験が、その子の人生を豊かにすると信じ、音楽を通して子どもたちの世界をひらく活動を続けている。